AllAboutゲーム業界ニュースで「テクモ営業さんに聞く新規作販売の苦労話」という記事を書きました。アンデッドナイツという新作ゲームソフトの営業をするテクモの社員さんに、そのご苦労を伺うインタビュー記事です。
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アンデッドナイツ | TECMO
AllAboutでも書きましたが、ゲームの営業さんのお話ってあんまり世の中に出回ってませんよね。でも、やっぱり話を伺ってみると驚きがあったり、発見があったりしますし、それで分かるようになることも多かったりします。なんでこのゲーム面白いのに売れないの、なんて話と直結することも多いんですね。
AllAboutでは、営業さんの仕事の流れを順を追ってご紹介しましたが、こちらではさらに突っ込んで、具体的にどうやってお店にゲームをアピールするのか。お店は、何を判断して仕入れを決めているのか、というところを伺ってみたいと思います。
田下:というわけであらためてご紹介します、テクモ株式会社のゲーム事業推進部、根岸 卓也さんです。引き続き、宜しくお願いします。
根岸:宜しくお願いします。
アンデッドナイツ、売れてます?
田下:いきなりですが、どうです?売れてます?アンデッドナイツ。AllAboutのインタビューが掲載された10月15日に発売ですよね。
根岸:おかげさまで、初回出荷に対しては、かなりいい数字を出すことができました。これからさらにプッシュして、売上げを伸ばしていきたいと思っています。
田下:その姿勢がすごいですよね。僕が初めて根岸さんにお会いした時、もっとセルスルーを意識したいっておっしゃっていたんですよね。それがすごく印象的でした。
知らない人の為に説明すると、ゲームメーカーが問屋さんなどに出荷することをセルイン、お店からユーザーにゲームが売れることをセルスルーと言います。ゲームは基本的に返品という仕組みがない業界なので、メーカーはセルイ ンの時点で売上が確定します。なので、セルスルーがきちんと意識されていない状況というのが、少なからずあります。
根岸:もちろん私も営業ですから、1本でも多く仕入れていただきたいと思っています。でもやっぱりメーカーはきちんとお客さんに売る、というところまでもっと考えた方がいいと思うんです。アンデッドナイツは、新規性が高いせいで内容を伝えるのが難しいところはありますが、力のあるタイトルだと思っています。まだまだ売れるように、バックアップしていくつもりです。
田下:普通の人が聞いたら、メーカーがお客さんに売れることを意識するのは、当然なんですけどね。でも、そんな当たり前のことがなかなか難しかったりするんです!
ゲーム業界の営業トーク
田下:営業さんがどうやって、ゲームを売るのか、もう少し突っ込んでお話を伺いたいと思うんですが。
根岸:はい。
田下:記事でも書いたとおり、ゲームが発売される2ヶ月前くらいに、商談会があって、プレゼンテーションをしたり、試遊したりするわけじゃないですか。
根岸:そうですね。
田下:これを読んでるユーザーさんに分かりやすいように言うと、商談会というのは東京ゲームショウをすごくすごく小さくしたようなものだと思うんですね。で、ゲームショウでもそうですが、ちょっと遊んだぐらいでは、そのゲームが面白い面白くないというのは、中々分からない場合もありますよね。ましてやどのくらい売れるかなんて。
根岸:難しいと思います。
田下:そういった中で、でもお店は発注しなきゃいけないし、営業さん達は売らなくてはいけない。というところで、根岸さん達が、実際にお店の人達にアピールする際に、どういうことをお話しているのだろうか、というところに興味があるわけです。
根岸:アンデッドナイツについては、まず、テクモらしい新規アクションゲームですよ、ということをお伝えするわけです。ただ、流通さんにおいては、全くの新規タイトルでこういうところが面白いと訴えても、結局売れる売れないがなかなかイメージしにくいという実情があります。
で、僕らがお話するのは、アンデッドナイツの持つダークファンタジーの世界観です。テクモの実績で言えば、初代PlayStationで発売した刻命館や影牢というのがまさにダークファンタジーの作品になります。かつ、 ゲームの中身についても、当時としてはかなり斬新な、罠にはめて敵を倒すという、トラップアクションゲームと呼ばれる・・・このジャンルにおいては後にも先にもこのゲームしかないのかなあというタイトルなんですが、これらのタイトルの実績は累計で55万本ありますよ、と。
田下:なるほど。影牢は懐かしいですね。あれもかなり斬新なゲームでした。
根岸:この数字をお話した上で、今のPSPマーケットにおいて、どういうセールスポイントがあるかということになります。
テクモのゲームって、刻命館や影牢もそうですが、すごくシステムが尖っているものがあります。アンデッドナイツも、敵をゾンビにできて、ゾンビに敵を襲わせたり、ゾンビを投げつけたり、ゾンビを橋にしたり、とにかくハチャメチャなプレイが楽しめます。そういう尖ったゲームが好きなお客さんというのは一定層いるはずです、と。
でありながら、操作系は三國無双シリーズに近いもので、誰でも分かりやすく入れますよ、ということ。
それから、今のPSPマーケットで売れる傾向のあるタイトルとしては、やり込み要素があることだったりとか、マルチプレイに対応しているといったところだったりしますが。アンデッドナイツでも、3体いるプレイヤーキャラクターをカスタマイズできたり、アドホックモードによる対戦がある、というところで押さえているところは押さえていますよ、と。
田下:たしかに、このタイトルに近いこのゲームが何本売れてるので・・・というところから入るアピールは目にすることが多い気がします。それともう1つ、よく目にするのはプロモーションスケジュールですよね。
プロモーションと発注の関係
根岸:今お話したような説明で、ゲームが面白そうだと感じていただいて、ターゲットのユーザーをイメージしていただいて、売れそうだと思っていただく、という軸が1つあります。
ただ、お店の方々は商談会を見て、2ヶ月も先に発売される、売れるか売れないか分からないゲームを発注しなければいけないという状況があります。しかも、発注すれば全部買い取りです。そういった中で、メーカーがいくらこれこれこういう理由で売れます、といっても、お店からすればタラレバもいいところですよね。
田下:まあ、メーカーさんが自分のゲームを売れます! というのは当たり前ですもんね。
根岸:そうすると、より客観的な材料が必要になります。それがプロモーションはどうやるの、という話。特にプロモーションの規模ですね、これは重要になります。金額的な規模でなくても、どんなメディアでどのくらいの期間プロモーションをかけるか、というのは大きなポイントです。
田下:やっぱりお店の方はプロモーション展開を気にしますか。
根岸:とくにライトなユーザーさんが多くいらっしゃるお店のバイヤーさんは、ゲーム内容がどうかという以前の問題として、お客さんがどこでゲームの情報を手に入れるのか、そもそも知らせることができるのか、ということを気にします。
田下:いわゆるコアユーザーは自分から能動的にゲームの情報を調べますが、そうじゃないお客さんはたくさんいますからね。
根岸:例えば、単純にテレビCMをするかしないか、というだけでも大きいんです。商談会でもよく聞かれます「テレビCMするの?」と。で、しますよ! と答えられれば、その時点で仕入れに対して少しポジティブになったりします。
オンライン販売があっても、お店は必要?
田下:お店に売り込む話を聞いたあとで、最後にすごくメンドウな質問をしたいんですが。
根岸:なんでしょう?
田下:最近オンラインのダウンロード販売って進んできてるじゃないですか。で、ぶっちゃけた話、メーカーの人ってお店さんのことどう思っているんだろうか、と。もうお店なんて要らないぞって思ってるところもあるんじゃないかみたいな、そういう疑心暗鬼もですね、業界の内外にあるのかもしれないと思うわけです。
でまあ、いっそ聞いてしまおうと。いる、いらない、という話が難しければ、素直に根岸さん個人がお店というものをどういう存在だと思っているかというお話を。
根岸:そういうのって、メーカーによっても、人によっても、持ってる意見は違うと思います。あくまで、僕個人のことでいいなら、僕は最初からメーカーにいたわけではなくて、流通から入ってる人間なんです。1番最初はゲーム業界ではなくてですね、レコード業界の問屋さんに入りました。
田下:ユーザーさんには知られていないことかもしれませんが、ゲーム業界って、音楽業界から流れてきた人が結構いますよね。コンテンツ産業という点で近いからでしょうか。
根岸:なので、それはそれで問屋出身というフィルターがかかって、流通の力をもしかしたらポテンシャル以上に感じているかもしれないし、お店の人とコミュニケーションを取っているので情が入っていることもあるのでしょうか、 パッケージは残って欲しいと思います。そして、お店という空間にはすごいパワーがあると思っています。
ダウンロード販売だって、メーカーが力を入れていけばエモーションをこめてお客様を動かせるとも思っていますが、お店の持つ、生の現場、ダイナミックなパワーは、やっぱり大切だと感じています。
田下:なるほど、メーカーの人にそういう考え、感覚の方が、少なくとも1人はいるということが分かっただけで、十分です。
今日はありがとうございました。
根岸さんとのこのインタビューは、休日の午後、僕の事務所に来ていただいて行ないました。インタビューの前に行なった打ち合わせは、夜の10時にテクモさんにお邪魔しました。何が言いたいかというとですね、すごく忙しく働いてる人なんですよ。
忙しそうですね、と聞くと、いやあ、と頭をポリポリかいて、忙しいっていうか、こういう時代なんで、普通にやってるだけでは駄目ですから、色々新しいことをしていかないといけないので、と言います。
営業さんがインタビューを受ける、というのもイレギュラーな話だと思いますが、それでアンデッドナイツが話題になるなら何でもしよう、という姿勢なのだと思います。
テクモさんは、今、新規タイトルに大変力を入れているそうです。アンデッドナイツもそうですが、DSの推理アドベンチャー、AGAIN FBI超心理捜査官、PlayStation3用のアクション・シューティングのQUANTUM THEORYと、続々新規作を投入していきます。
そういう取り組みをすることが、制作の現場はもちろん、営業さんも大変であることは、記事を読んでいただいた方には良く分かっていただけるんじゃないかと思います。本当に、手探りで、ひとつひとつ新しいノウハウを積み上げていく毎日だそうです。
でも、そうやって、なんとかして新しいものを作っていくことが、エンターテイメントの業界には、きっと必要なんだと思います。